気づいたら10年打ち込んでいた元スケーターの備忘録

元大学生フィギュアスケーターが10年間のスケート人生を通じて感じたことを、当事者ならではの視点から書いたり、そんな私の感性に刺さったモノを紹介します。

スケーターが持つ「空間認識能力」とは

今回は「空間認識能力」についての話です。

 

フィギュアスケートを続けてきたことで身に付いた力の一つに

「空間認識能力」があるのではないかと思います。

 

あえてカッコ書きにしたのは、ある方とお話しして得た気づきを、一言で表すために

私自身がこの言葉を当てはめたからです。

 

ここで私が意図するのは、ざっと

 

ある空間において、自分が今どこにいるのか、

自分の周りの人はどこにいるのか、次に自分はどこへ行くべきなのか、

その空間の外からは自分・自分を含めた周りの人はどう見えているのか、

というようなことを、瞬時に判断し行動する力、これを無意識レベルでできる力

のことです。

 

もう少しわかりやすくするために、フィギュアスケートでの具体的な場面を挙げながら考えていきたいと思います。

 

まず、フィギュアスケートでどのようにその力がつくのか

1)練習のとき

以前別の記事でも少し触れましたが

普段の練習はリンクに数十人がいる状態で練習します。

その中で前向き・後ろ向きに滑りながら、ジャンプやステップなどを練習するのです。

そのとき常に頭の中の一部にあるのは

「自分の周りにぶつかりそうな人はいないか」。

もちろんステップの動きなどについて考えていることもありますが、

上記の意識は常に根底に、無意識レベルに存在しています。

 

というのも...

スケート靴の氷と触れている部分であるブレードは一種の刃物だと、

以前の記事でご紹介しました。

 

滑ってる氷は頭などを打つと大怪我につながる可能性もあります。

私自身、担架で運ばれている人を見た回数はこれまでに少なくありません。

スピードを出している人同士がぶつかる、なんてことはとても恐ろしいことです。

そんな環境なので、誰かに怪我を負わせない(もちろん自分も怪我をしたくありません)ために「ぶつかることを避ける」というのは、

当たり前ですがスケータ―にとって最優先事項といっても過言ではないでしょう。

 

例えば、ジャンプの練習で、ジャンプの助走に向かっているときはこんな具合です。

 

・自分が跳ぼうとしているコースの先で、別の人が跳ぼうとしている。

 でもその人が跳んだ後はコースから外れるので、

 自分はこのままジャンプに向かっても大丈夫だな。

 

・でも、もし前でジャンプを跳んだ人が転んでしまったら、

 立ち上がるまでの時間を考えると

 自分がこのままのコースでジャンプに向かうとぶつかってしまうな。

 

・前の人のことを考えると、

 自分はコースを少しずらして跳んだ方がいいかもしれない。

 でも自分の後ろにはそのずらしたコースで跳ぼうとしている人がいるようだ。

 譲った方がいいだろうか。

 

ジャンプの助走に向かって滑っているときに前後を見ながら、

このような思考が頭の中を駆け巡っています。

自分の動きを考えながら、周りの人の動きも把握・予想し、

自分と周りの人との関係性を認識する、そしてその後の動きを瞬時に決断する。

このような思考と判断を一回ごとのジャンプやステップの練習の中で繰り返しているのです。

 

2)試合のとき

 試合では練習のときとは一変、広いリンクで一人で滑ります。

試合に関する空間というと

・ジャッジから自分はどのように見えているのか

・観客席からはどう見えているのか

・試合会場ごとに多少サイズが異なるリンクを大きく使えているか

スケートリンクを上から見て、一つの大きな楕円と捉えたときに、プログラム全体を通して万遍なくどのスペースも使って滑っているか)

・スピンが終わったときに次に滑り出す方向はどの方向か

・最後にポーズをとるのはどの向きか

 

こんなことが頭に浮かんでいます。

試合で滑る会場は初めて滑るリンクということもあります。

試合前の公式練習ではもちろん、本番前ぎりぎりまで、

頭の中で目の前に広がるリンクでどう滑るか、どこでどの技をするのか、

イメージを含ませていざ本番を迎えます。

 

これらの練習と試合を何年も積み重ねていくことで、

「空間認識能力」が身についたのだと思います。

 

冒頭で、これはある方(以降Aさんとします)とお話する中で得た気づきだと

書きました。

就職活動のときに出会った社会人のAさんは

バレエを長年やってこられている方でした。

 

Aさんとフィギュアスケートをやってきたことで身についた力について

お話していたとき。

Aさんは、「バレエをしてきたことで「空間認識能力」が身に付き、

それは仕事においてもとても活きている。

あなたが培ってきたその力はきっとどの組織に入っても、活きる力である。」

と伝えてくれました。

 

バレエも、舞台の上という限られた空間の中で、

・自分が今どこで踊っているのか

・そしてそれは観客から見たらどのように見えているのか

・複数人で踊っているときは、隣の人との距離感はどうか、全体のバランスはどうか

これらのようなことを考えながら、動いているそうです。

 

フィギュアスケートとバレエは動きにおいて、似ている点が多いと思いますが、

このような観点でも類似点があるのです。

 

これを組織の中という視点で転換して考えてみると、

・組織内での自分自身の役割を正しく認識する

・自分と周りの人(上司、部下含め)との関係性に常にアンテナをはる

・自分がどこに向かってどのように動くか、を無意識レベルで考え、判断する

 

こんなようなことではないでしょうか。

こう考えると、スケートをしているときと思考回路がとても似ていると感じます。

 

私は、Aさんの言葉を聞いて思いました。

フィギュアスケートで、そんな力が身についていたのか、そんな観点があるのか、と。

もちろん、これはAさんの視点や感性によるところもあり、

私自身にとび抜けた「空間認識能力」がある、というわけではないと思っています。

 

ただ、この力はある程度フィギュアスケートをしてきた人には

身についているのはないかと思います。

スケートだからこそ身についた力って何だろう、と頭を悩ませていたときに、

Aさんからもらった言葉は、大きな気づき、そして自信になりました。

 

「空間認識能力」を無意識レベルで働かせることができる、

その上で行動ができるという強み。

こんな観点があるんだということが、就職活動をしているフィギュアスケーターの方のほんの一助になれば嬉しいです。